Part 4 の はじめに
2011/05/17
「マイクの友だちと家族」「タケシの留学」それぞれの Part 4 「はじめに」のセクションに掲載したものと同じものを以下に掲載させていただきます。
外国語を学ぶ動機が明確でやる気のある人ほど、短時間で効率よく言語を習得 することが知られています。最近よく使われる「モチベーション」というカタカ ナ語を使うなら、モチベーションが高ければ高いほど外国語の上達が早いという ことになります。英語が上達しないのには様々な原因が考えられますが、モチ ベーションの不足がその原因のひとつと言えるのではないでしょうか。勉強して も話せないという悩みを持つ日本人の多くにモチベーションが不足していると思 うのです。
モチベーションは語学を習得しようとする個人の動機や目標によって違いが出 てきます。英語に取り組む人が大勢いて、日本人は真面目だという印象がありま すが、真面目だから必ずしも個々人のモチベーションが高いとはかぎりません し、取り組む人の数が多いということが個人のモチベーションに影響を及ぼすも のでもありません。モチベーションを計るには、全体の傾向ではなく、個人がど ういう動機で何を目標にしてどれだけ努力をしているかに着目しなければなりま せん。英語を活かした仕事に就きたいと漠然と考えて留学する人と、ある大学で ある特定の分野を先攻して学位を取得し、その分野で活躍しようという具体的な 計画のもとに留学する人を想像してみてください。同じ留学でもモチベーション は後者の方が高いと容易に想像できます。
明確な目標と具体的な計画を持って英語を勉強している日本人の数だって決し て少なくないのでしょうが、英語を勉強したいという気持ちはあるけれども、モ チベーションが高いとは言えない人々が学習者全体に占める割合は相当なものだ と考えられます。したがって、勉強してみたけど上達しない人が多く、そのこと が日本人は英語が苦手だという固定観念につながっているのです。TOEFL を例 にとると、日本の平均点は他国に比べて極端に低いという結果が出ています。こ れは平均点を出すときの分母にあたる受験者数が多いことによるものです。日本以外の国では、ある特定の専門分野をアメリカの大学で勉強しようという人が TOEFL を受験するのが一般的です。留学を真剣に考えている人だけが TOEFL を 受験する国の平均点と比べれば、留学する気がなくても受験する人がいる日本の 平均点が下がってしまうのは当然です。また、英語を活かした仕事に就きたいの で語学留学をしようとか、英語圏の生活や文化に興味があるのでホームステイを してみようと考える日本人の数は、かなり多いと言えます。実際、ホームステイ は日本人専用のプログラムだと思っているアメリカ人やカナダ人がいるほどで す。そうした北米のホームステイ・ツアーに参加する日本人は、アメリカやカナ ダの生活や文化に興味を持ち、英語を話せるようになりたいという気持ちが強い ことに疑いはありません。しかし、その気持ちは就職や移住など具体的な計画を 立てて努力している人が持っているような強いモチベーションとは異なります。 ホームステイ中に言葉が通じず悔しくて奮起したとしても、日本に戻り、日本語 だけで何ひとつ不自由することのない日々を送るうちに、そうした気持ちは冷め ていくものだからです。それに対し、明確な目標と具体的な計画を持って留学す る人は、目標達成の手段にすぎない英語にそんなに時間とお金をかけていられま せん。同時に、英語という言語を使ってある特定の分野で勝負しようとすると真 剣にならざるをえず、短期間のうちに集中して英語を習得しなければならないわ けです。
別な見方をすれば、日本人は経済的に豊かだから英語を勉強するという目的の ためだけに英語圏に滞在する余裕があるのだと言えます。世界の多くの人が生計 のために英語を話して働かなければならない状況を抱えているというのに、日本 には英語のためだけに英語圏に滞在できるほど余裕のある人が大勢いるというこ となのです。ただ、企業が国境を越えて活動しなければならない今日の状況や、 アジアの国々から有能な人材を雇用する日本企業が現れ始めたような状況を鑑み ると、今まで同様、悠長に英語を勉強する日本人がこんなに多くて大丈夫なのか と心配せざるを得ません。これから社会に出て行く人々は就職戦線において他国 の人と競争しなければならないのです。また、英語の情報を収集したり、英語で発信したりする人材、さらには派遣先の言語で仕事をするような人材が求められ る時代なのです。現状を踏まえて、時代の要請に応えられる日本人の数は当然、 増えていくべきものと思われます。それには現在よりもっと多くの人々が専門の 技術や知識に加え、すぐれた思考力や判断力などを身につけなければなりません し、それらの力を英語やその他の外国語を使って発揮してゆかなければならない でしょう。したがって、語学力は身につけるべき技能のひとつにすぎず、これか ら世界に出て活躍しようという若者には、語学を短期間で集中的に学んでいくこ とが求められると思います。
さて、あなたはどんな目標やどういう計画を持ち、何をしたいと考えて英語を 勉強しているのでしょうか。プロゴルファーが上等なゴルフクラブを使って高い スコアをたたき出すように、すぐれた語学力を道具として使い、いい仕事をした いと考えているのでしょうか。将来の仕事を具体的に思い描くことができれば、 語学力という道具を磨こうとするモチベーションは高まり、上達も早くなるはず です。もちろん、プロゴフファーだけがゴルフをするわけではありません。趣味 でゴルフを楽しみたい人もいるでしょうし、そういう人が、たとえ下手の横好き であっても高級な道具をそろえることもあるかと思います。同じように、英語を 勉強するのに英語圏に滞在する余裕のある日本人がいても不思議ではありませ ん。ただし、お金をかけさえすれば高級な道具が手に入るというわけにはいかな いでしょう。モチベーションが高くなければ、お金や時間をかけても語学はあま り上達しない可能性が高いからです。たとえ趣味のための語学学習であっても、 目的を明確にしてモチベーションをなるべく高く保てるように工夫をしてはどう でしょう。どういった場面で使うための英語なのか、目的を明確にしたうえで、 何かしら工夫を凝らしてモチベーションを高く保つことができれば、それなりの 効果が期待でき、英語はきっと上達するものと思われます。
2011年3月 著者